5/28(日)に開催した、課題本型読書会の終了レポートです。
課題本:『観光』
ラッタウット・ラープチャルーンサップ著
早川書房
開催日:2023年5月28日(日)
時間:9:30~11:30
開催場所:池袋駅周辺のカフェ
人数:7名
タイ出身の作家によるタイを舞台にした小説が珍しかったので、課題本にしました。
私は海外小説が好きなのですが、理由は単純で、ただ珍しくて、目新しくて、自分の狭い世界が広がる気がするからです。
日々東京であくせく働いている私、その私と地続きの地球上で、いまこの瞬間に、国や文化や肌の色が異なる人々が、自分とはまったく違う環境で生きていて、私には思いもつかないような、悩み、悲しみ、苦しみ、喜びを感じていてる。そんな彼方の地に思いを馳せつつ、文学という形で少しでも世界を知ることができたらなと思います。
『観光』は7編の短編から構成されており、参加者7名で抜粋した短編を中心に感想をシェアしました。
≪皆様の感想(抜粋)≫
~まずは全体の感想~
・話の並びが良い。最初に「ガイジン」を持ってきて「闘鶏師」で終わるこの順番がすごくいい。
・日本語が固い気がした。
・ジュンパ・ラヒリの『停電の夜』に似ている。
・クリエイティブ・ライティングが文学に昇華した感じ。
・とにかく面白かった。
・母国語でない言語で小説を書くこととはどういうことか。
・べったりしていない。サラッとしている。
・サラッと描くことで、対象物の残酷さ悲惨さがより浮き彫りなる。
・タイらしい他の国にはないダイナミックさがある。
・タイの中での貧富の差が歴然としており、あらためて日本との違いを感じた。
・重いテーマなのに、あえて重くせずに描いていいる点がよい。
・明るい場面の描写が際立つ。
・悲惨なものを悲惨に描くのはただのルポ。文学とはそれを一歩乗り越えて、どう味付けし、どう伝えるかが肝心。
・現実から文学に昇華させるには、間にどのようなフィルターを挟むのか?どのような板を挟むのか?
・著作は短編の名手ではないか。物事のたたみ方がとてもよい。
・26歳でこれを書いたことは驚嘆に値する。現在小説を書いているのかいないのか不明だが、書いていないのであれば、この才能がもったいない。
・この著者の長編を読んでみたい(←いやこの著者は短編の方が向いているのでは?)
~各話の感想~
第1話目「ガイジン」
・主人公よりのお母さん目線で読んだ。
・男の子のお母さんとは万国共通。普段の息子への関わり方、お小言など目に浮かぶよう。
・軽快なセリフが良い。見ていて心地よくテンポが良い。
・これを最初に持ってきたのはとてもよい。この疾走感がよい。表紙の挿絵だと思い笑った。
・このお母さんは息子を自分と同じにしたくないのだろう。
・なぜ主人公はタイ人ではなく外人の女の子が好きなのか?(←お母さんに似ているから?憧れなのでは?)
・屈折しているものを面白く書くのが上手い。
・単純にクリントという名前がよい。
第4話目「観光」
・冒頭「南行の列車に乗っている。」がとてもよい。
・少しずつ年とともに身体が衰えていく、をれを親子二人でどう向き合うかを良く描いている。
・とにかく風景の描写がいい。情景が目に浮かぶよう。
・サングラスを値切る場面え、お母さんの逞しさや茶目っ気を感じる。
↓皆さんが気に入った情景描写
「生暖かな風がスクリーン・ドアから吹きこみ、赤と黄色の夜明けの空の背景に母の小さな影が黒く浮かぶ」P112
「紫のラインストーンとアルマーニという金文字のついた鼈甲縁のサングラスが、青緑色の海の中を、柔らかな砂の海底に落ち着く先を求めて、螺旋を描きながらゆっくりと沈んでいく様を。」P118
「ようやく手の力を抜き、太腿の皮膚に血が通ってくるのがわかる。」P118
第6話目「こんなところで死にたくない」
・ビールをストローで飲む奴なんかおらん、と言うおじいさんが笑える。
・自分の身体を思うように動かせなくなる=健康な人たちから置いて行かれる。
その感覚を他人のせいにしてしまう。
・26歳の著者はこの話をどのように描いたのか?どの視点で描いたのか?身近にこういう人がいたのか?
・アメリカとタイ、文化圏が違うので常識も違う。
・ジャックはタイの女性と結婚してタイに住んでいる。第1話目のお母さん(アメリア軍人の捨てられた)との境遇の違い。同じ混血児でもあまりに違い過ぎる。ジャックは男としての責任を取っており、
最後にお父さんが誇らしく思う気持ちに共感する。
第7話目「闘鶏師」
・血と肉と臓物の描写が凄まじい。生臭さが漂ってくるよう。
・この著者は、短編は得意だが中編(長編)は苦手なのでは?と思う。
人間関係の繋がりが不明確で、お姉さんのエピソードが突然すぎて分かりづらい。
・これは実験的に描いた小説なのではないか?もっと短くできたのにわざと長くしたのでは?
・お父さんとお姉さん、お父さんとビッグ・ジェイの関係性が不明確。もっと掘り下げて描けが、全体的に深みがでたのでは?
・ラストのラッダの行動が不明。ラストが雑。しかし情景描写が良い為、映画のワンシーンのようだ。
・お父さんはギャンブル狂いのダメな奴なのに、お母さんは見捨てない。根はいい人なのだろう。
第2話目「徴兵の日」
・この短さにドラマがギュッと凝縮されている。
・緊迫感と緊張感がすごい。
・あまりにも分かりやすい賄賂で、途上国(異国)を感じさせる。あためて日本との違うんだなと思わせる。
・第1話と同じで、お母さんは万国共通、強くて優しい。
第5話目「プリシラ」
・単純にタイに移民がいることの驚いた
・歯は考えつかなかった、さすが歯科医、賢い。
・なぜ最後に歯を捨ててしまったのか?それが分からない私は既に汚れた大人なのだろうか?
・この悲惨な現実を、子供たちを主人公にして、明るくて悲しくて、よりメッセージ性の高いものとなっている。
・この話が一番好き。
・この話もお母さんがよい。
〜気に入った箇所〜
P37
泳げ、クリント、泳げ。
P74
「いいぞ」兄さんがぼくの耳元で囁いた。「その調子だ。いいぞ。やれるじゃないか。ちゃんとやれるじゃないかよ。実にうまく運転している。サードギアなどお手の物って感じだぞ、坊や。じゃあ、次はフォースだ」
P122
「わたしは死ぬわけじゃない。ただ目が見えなくなるだけ。そのことをよく覚えておいて。大きな違いだから。まったく違うわ。いくら善良な人たちが毎日のように失明したり、死んだりしていようとね」
P180
「ご機嫌いかが?」ともう一度男の子が言う。私が最初の言葉を聞いていなかったかのように。
P186
自分の妻を抱き寄せているジャックは立派だ。ふたりの愛情が勇気の伴う素晴らしいものだと初めて思う。ほら、あれがあの子だよ、アリス。私たちの息子だ。私たちの可愛い息子だ。
P296
立ち上がり、マツダに向かって歩いていった。運転席に乗り込んだ。窓を開けた。「出発よ」そう呟くと、トラックのギアを入れ、わたしは家を後にした。
以上です。
やはり課題本読書会は楽しいですね。
他者の感想を聞いたり、共感したり、自分とは異なる視点で見ていたり。
既に読んだ本なの、一瞬にして違った本に見えたりします。そして再読し、また楽しめます。
ご参加いただいた皆様、ありがとうございました。
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